赤い瓦屋根の自宅兼パン工房の扉を開けると、どんなに忙しい時でも福ちゃんは笑顔で迎えてくれます。
噛み締めるとじんわりと素材の美味しさが広がる福ちゃんのパンは、「素材の味が出てる」「お腹にもたれない」と評判。
地元産の材料で、安心安全なパンをつくりたい

寺田本家の酒粕から酵母を起こして国産小麦と合わせ、1次発酵、2次発酵と繰り返した後に手でひとつひとつ形をつくって、ちょうどいい時に焼き上げています。
福ちゃんこと福士智之さんは、奥さんの香世子さんと共に、10年以上前から不耕起栽培の研修で神崎を訪れていました。料理上手な福士さんは、農業をやりながら安全な農産物を加工して販売できる仕事を考えていたそうです。そんな頃、寺田本家の酒粕酵母と出会い、その発酵力に驚きます。
「それまでつくっていた、レーズンなどで起こした酵母とは全然違うんですよ。いい感じでモチモチするし、すごく美味しかったんです。」
その後神崎に移り住み、手づくりの酒粕酵母パンをいろんな人に食べてもらううちに人気を呼び、パン屋開業を一大決心。発酵を学ぶために寺田本家でひと冬酒造りの手伝いをするなどして、2009年11月に開店。最初の1カ月は、寝る間もない忙しさだったそうです。
「スローライフほど忙しいものはないです(笑)自分が食べたいと思ってつくっているパンを、お客さんも共感してくれて、美味しいと言ってもらえると嬉しいですね。地元の安全な食材が手に入るのが、田舎でパン屋さんをする一番のメリット。いつかは、自分で育てた小麦でパンがつくれたらいいなと思っています」